第5章 ※三角形 case3※
そういえば、前にそんな嘘をついて朝帰りした事がある。
今、秋紀が言ったように仕事が理由で、会社に泊まっただけだった。
その頃は、仕事が終わらないのは、自分の作業が遅いからと思い込んで、恥ずかしくて嘘をついたんだ。
今回も、同じ事だと勘違いしてくれてるようで。
「お前んトコ、仮眠室とかあるんだったか?あんま寝てねぇなら、休んどけー。
あ、取り敢えずコート脱げよ。掛けておいてやっから。」
至れり尽くせりな状況が、申し訳なく思えてくる。
誠実さは欠片も無いのに、こういう優しいところがあるから、モテちゃうんだろうな。
余計な事を考えて、ぼーっとしてしまった。
その所為で、心配した秋紀が近寄ってくる。
「コート脱げねぇくらい疲れてんの?なら、脱がしてやるから、じっとしとけ。」
丁寧にコートのボタンを外す手。
それが、胸元辺りまで外した時に一瞬だけ止まった。
不思議に思って下を向くと、ブラウスのボタンが緩んでいて、若干はだけている。
昨晩の、浮気の証拠…リエーフの痕を完全に見られてしまった。
「…なぁ。」
声が低い気がして怖い。
「昼過ぎに起こしてやるから、それから買い物な?」
それなのに怒る訳じゃなく、予定を一方的に告げて、コートを持ってリビングに入っていった。