第5章 ※三角形 case3※
自分が嫌な事は、人にやっちゃいけない。
そんなの、子どもでも知っている。
こんな後悔が頭を巡ったのは、朝になってからだった。
隣では、リエーフがまだ眠っている。
起こさないように、そっとベッドから抜け出して、身支度を整えた。
目を覚まされたら。
あの瞳で見つめられたら。
また囚われて、逃げられなくて。
ズルズルと関係を続けてしまう。
昨晩の事を後悔するのは、まだ秋紀に対する情もあって、リエーフに本気になれないから。
このままだと、ずっと彼は浮気相手だ。
流されちゃ、いけない。
「…ごめんね。」
眠っている相手には、きっと届かない小さな声を残して、先にホテルから出た。
自宅に向かう足取りが重い。
今日は、秋紀が家に来るって分かっている。
普段通りの対応を出来る自信は、残念ながら無い。
口から溜め息ばかりが漏れて、自然と下を向いていた。
それでも、足は一応動いていて、自宅に辿り着く。
鍵を開けようとした時、勝手に扉が開いて。
「オカエリ。」
中から、秋紀が顔を出した。
あまりの展開に頭がついていかず、瞬きを繰り返す。
「お前、飲みとかウソ吐いて、朝まで残業でもしてたか?お疲れさん。」
朝帰りしたというのに、秋紀は浮気を一切疑っていない様子だった。