第1章 三角形 case1
そう、顔は出すよ。
最後の挨拶の為に。
周りにあれだけ迷惑掛けて居場所がある訳ない。
ちゃんと考えて決めたし、ケジメは付けないと。
覚悟を決めて、迎えた放課後。
何故か、同じ学年の尾長くんが迎えに来た。
確かに上級生の京ちゃんが迎えに来るよりは騒ぎにならないだろうけど、私に対して過保護な気がする。
絶対に京ちゃんの差し金だ。
体育館まで、ご丁寧に私の荷物持ちをしてくれた。
顧問、監督、コーチに合宿中の謝罪をして、退部の意思を伝えようと近付く。
「昨日はマネージャーとしての仕事も出来ず、早退までしてしまってすみませんでした。…それで、あの。」
言い方に困って言葉が詰まる。
「小熊ちゃーん!買い出し中に転けたって?大丈夫かー?」
言い出せずに迷っていると、相変わらずテンションの高い木兎先輩が後ろから抱き付いて来た。
下手をすればセクハラとでも言われそうな行動でも、不思議と許せてしまう。
それと、怪我をしている状態で抱き付かれて平気かは別問題だけど。
なんとか片足で踏ん張って転ばないように耐えた。
「木兎さん、さくらは怪我人ですから。」
少し離れた場所でパイプ椅子を片手に呆れた顔をして私達を眺めている京ちゃん。
「小熊さん、あっち座ってスコア付けて。今日は3対3の試合形式やるから。」
先輩マネージャーが私にくっついていた木兎先輩を引き離し、京ちゃんが置いていた椅子を指差す。
すでに部員は殆ど揃っていて、私の周りに集まっていた。
皆、怪我を心配してくれたり気を使ってくれたりしていて謝る事は出来たけど、辞めるとはとうとう言い出せずに部活が終わった。