第1章 三角形 case1
玄関のチャイムが聞こえる。
京ちゃんのお迎えだ。
「いってきまーす。」
返答はないと分かっている家の中に声を掛けて、鞄を持つと外へと出た。
「おはよう、京ちゃん。」
玄関前で待っていた人に挨拶をして、学校の方向に足を向ける。
「おはよう。」
挨拶が返ってくると、片手を引かれた。
鞄を持っている方の手。
どうしたのか聞く前に、私の手から鞄が離れた。
「持つよ。」
「そこまでの怪我じゃないから平気だって。」
京ちゃんの持つ自分の鞄を取り返そうと、手を伸ばす。
でも、上にあげられてしまって届かなかった。
合宿中に避けていた時の雰囲気はなく、いつもと同じ優しい京ちゃん。
結局、甘えてしまって学校まで鞄を運んで貰った。
「部活…どうすんの?」
昇降口で鞄を受け取り、教室に行こうと背を向けた時に聞こえた声。
辞めようと考えているのが気付かれているのか、怪我をしているから休むと思われているのか。
判別がつかずに立ち止まって考えた。
「…休みなら俺も早めに上がって送るから。」
答えに迷っている内に次いだ話に腰を捻って上半身だけ振り返る。
「そんな事しなくていいよ。京ちゃんがトス上げなかったら、木兎先輩も困るでしょ。顔は出すから。」
遠慮を示して手を横に振った。