第1章 三角形 case1
「お疲れ。」
帰り道、いつもと同じくジュースを差し出す京ちゃん。
違うのはジュースと入れ違いに私の鞄を奪うように取る事だけ。
「…京ちゃん、あの、さ…。」
私の歩調に合わせてゆっくり歩く京ちゃんに、マネージャーを辞めたいと伝えようと口を開いた。
「辞めていいよ、なんて俺が言うと思う?…監督もコーチも先輩も、他の部員だって気にしてない。皆、上がり下がりの激しい人間に振り回されるのは慣れてるから。」
言いたい事は簡単に見透かされていて。
しかも答えはいつも私に甘い京ちゃんならしない否定で。
気持ちは付いていかなかった。
「…だって。私、役立たずで、皆に迷惑しか掛けてない。それなのに…優しくしてくれて、申し訳ない。」
今日1日、溜め込んでいた言葉を吐き出す。
他の学校のマネージャー代わりをしたい、とか自分勝手すぎる申し出をして、梟谷のマネージャーとしての仕事は出来なかった。
その上、怪我して合宿を早退してしまった。
怒ってくれて、クビにしてくれた方がまだ楽だった。
「…私は、木兎先輩と違う。あの人はエースで、チームに必要な人。私とは違う。私は必要ない。あの場所に私が居ていい理由もない。」
上がり下がりの激しい人間、と例えられた人は簡単に予想出来た。
梟谷のエースだ。
私なんかと、比べちゃいけない人だった。