第5章 ※三角形 case3※
夜久さんから、目の前に差し出されるポケットティッシュ。
それを受け取って涙を拭う。
この場で泣き続けたら、ただの迷惑な女だ。
「なんか、ごめん。」
「いや、俺が余計な事言い出したから…。」
「別に余計じゃないよ。秋紀も隠そうとしないから、後で分かる事だし。
寧ろ、事前に情報が入って有り難いくらい。感情的に怒るのは避けられるから。」
「別れたくねぇなら、喧嘩ばっかすんなよ?」
「原因作ってんの、あっち。」
「…だな。」
夜久さんとする会話は、何と無く暗い方向に進んでいく。
そんな中で、リエーフさんが手を叩いた。
まるで、良い事を思い付いたとでも、言いたいような仕草だ。
「小熊さんも、俺と浮気しましょう!」
名案だとばかりに、自信に満ちた顔をしている。
私と夜久さんは、この発想についていけず…。
「「…は?」」
一拍置いてから、ほぼ同時に一つの音を吐き出した。
「だーかーら!俺と浮気しましょう!」
「ごめん。同レベルになる気はない。」
再度言われるのも全く同じで、受け入れがたい提案だ。
「でも、小熊さんの気持ち分からせてやるチャンスですよ?」
「それで、フラれたら?私、一生独身とか嫌だもの。」
「そん時は、俺が責任取ります!俺、アンタに惚れました!」
本当に惚れてるなら、浮気相手になるなんて嫌だろうに。
気持ちをちょっと疑ってしまったけど。
責任を取る。
この言葉だけは、秋紀にも何度も言われたのに、初対面のこの人の方が信用出来てしまった。