第3章 三角形 case2
苦しくて、少しでも落ち着こうと深呼吸する。
「…好き。」
その吐息に、ただ一言。
言いたくなかった筈の気持ちが、勝手に唇から小さく零れる。
それは、龍くんの耳に届いて。
「…えっ!?あっ、はぁぁあっ!?」
一拍置いてから、分かりやすい驚きのリアクションを取ってくれた。
「やっ!あのっ!そのっ!スンマセンっ!」
顔を真っ赤にして、勢いよく頭を下げられる。
付き合ってと言った訳じゃないけど、お断りのつもりかな。
「俺…俺はっ!潔子さんへの愛に生きるって決めてるんで!」
考えるまでもなく、そのつもりだった事を告げられる。
キヨコさん。
さっきの綺麗な子を、夕くんはそう呼んでいた。
龍くんにとっては、憧れじゃないんだ。
若くて美しい彼女に、私が勝てる訳はない。
「応援してるね。龍くん、イイ男だから、きっと潔子さんも振り向いてくれるって。」
あっさり諦めをつけて、龍くんの頭を撫でた。
「ノヤっさんの気持ち疑われてキレた俺が、さくらさんの気持ち疑いたくねーんすけど…。」
ゆっくりと顔を上げた龍くんは、不機嫌そうにしている。
「俺の事、マジで好きなんすか?そうやって、すぐ相手の恋とか、応援出来るモンか?」
あんなに簡単に、夕くんの気持ちを疑っておいて。
私は、自分の気持ちを信じてくれない事に、傷付いてしまった。