第1章 三角形 case1
運が悪く、ボタンを押している最中だった為、画面に『通話中』の文字が表示される。
『…オイ、小熊。自分から手伝いに来ておいて逃げてんじゃねぇ。』
耳に携帯を当てると聞こえた声は怒っていた。
当たり前といえば当たり前の話だ。
「…すみません。」
絞り出すような声で、その一言だけ言えた。
返答はなく、長い溜め息が聞こえる。
『ドコにいるんだよ?』
少しの沈黙の後、聞こえたのは落ち着いた声で。
心配されている気がして、また涙が出た。
ジャージの袖で目元を擦りながら自分の状況を把握しようと辺りを見回す。
「グラウンド…端の、水飲み場…みたいです。」
『行くから待ってろ。』
場所を答えると一方的な言葉だけ残して通話が途切れた。
…ん?
この場に来るという事は。
泣いたばかりの顔を見られる。
きっと、理由を話したら馬鹿にされる。
逃げ出したい。
疲れた足を奮い立たせるように叩いて立ち上がろうとする。
けど、出来なかった。
座りこんだ時に足を捻っていた事に気付いていなかったようだ。
この状態だと、立ち上がれたとしても走るのは無理だ。
どうやっても、逃げられないと理解した。