第1章 三角形 case1
水飲み場で空のボトルを洗ってドリンクを作る。
梟谷ほどの部員はいないし数は少ないけど、一人でやると時間は掛かった。
やっとの事で全部のボトルを満たすとカゴに並べて体育館へ戻る。
満タンになったボトルは、かなり重くて、帰りは走る事が出来なかった。
「遅くなってすみません。どうぞ。」
体育館に入ると、一回目の試合は終わっていて。
慌てて謝りながらドリンクを手渡していく。
「小熊、時間掛かるなら誰かに連絡しろ。あまりにも遅いから逃げたのかと思っただろ?」
ボトルを受け取りながら説教らしい事を始める黒尾さん。
まぁ、遅くなった私が悪いから仕方ない。
「すみませんでした。以後、気を付けます。」
深く頭を下げて、反省を示す。
「じゃ、携帯教えろよ。」
返ってきた言葉は許すものでも更に怒るものでもなくて、驚いて顔を上げた。
「…は?何でですか?」
目に入った黒尾さんの手の中にはスマホが握られている。
聞き間違いではないらしい。
「連絡つかねーと困るだろうが。」
急かすような声にジャージのポケットから愛用のガラケーを取り出した。
慌てて操作をして電話番号を表示して。
そこまでやってふと気付いた。
「あの、試合中とか携帯いじれませんよね?黒尾さんに連絡しても意味ないんじゃ…。」
教える意味がない、と携帯を隠すように両手で握った。
「休憩中なら確認出来るだろうが。連絡入ってりゃ、安心するだろ?」
「はぁ…。」
あんまり納得は出来ないが、言い返しても勝てる気がしない。
仕方なく、自分の番号を口頭で告げてワンギリの形で黒尾さんの番号を知った。