第1章 三角形 case1
忘れないように、名前とビブスの番号のメモを取っていると影が落ちてくる。
「京ちゃんに怒られるんじゃね?」
聞き覚えのある、からかい混じりの声が聞こえてきた。
この声、間違いなく、事の発端の主将だ。
「怒る理由がないと思いますよ。」
苛々はしているけど、それに気付かれないよう落ち着いた声で返す。
「…コレじゃ、赤葦も大変だな。」
小さく独り言のように呟き、その人の視線が私から外れた。
他の場所を見るような瞳の動きにつられて、そちらを向くと京ちゃんがいる。
「えーっと、黒尾さん、でしたっけ?なんで、そんなに私と京ちゃ…赤葦先輩をくっつけたいんですか?」
つい、何時も通り愛称で呼ぼうとしたのを無理矢理直して、率直な疑問をぶつけた。
「…はい、小熊。全員分のドリンク宜しくネ。」
答えようか迷ったのか、間を空けてから、全然別の言葉が返ってきた。
手にはいつから持っていたのか大量のドリンク容器が入ったカゴ。
顔は相変わらず意地が悪そうに笑んでいる。
もう一度聞いても誤魔化す人の顔だな、アレは。
答えを諦めてカゴを受け取ると、その場から離れた。