第1章 駆ける兎の話
…十四人居てひとりだけ男?後の十三人は姉妹って事?
何だか蜂恵のこの調子がわかった気がする。こういうのを女慣れしてるって言うんじゃないかと思う。
「あなたたちも皆お母様が違うの?」
「同じだよ。変な事を言うなあ」
「私からしたらそっちが変だわ」
「そう?」
蜂恵は広げていた手を畳んで腕を組んだ。気を悪くした様子じゃない。ただ面白そうにしている。
「そう言えば君たちは皆母親が違うのだったね。しかも国まで全部違った筈。そういうのも楽しそうだ。退屈しなかったろう?」
「ええ、そうね」
確かに良いも悪いも退屈はしなかったと思う。そんな風に考えた事はなかったけど。
「やっぱり君とゆっくり話してみたいな」
「話してる暇は今ないの。あなたも私もこれから広間に顔を出さなきゃならないんだから」
「別に顔を出さなくても構わないよ」
蜂恵があっさり言う。私は呆れて腰に手を当てた。
「兄弟や姉妹が私たちを祝う為に集まって待っているのよ?」
「祝いの席なら土の者が盛り上げてくれるさ。土の演舞や謡いはなかなかのものだし、何より卓に載りきらない程のご馳走が振る舞われる。宴が始まってしまえば、すぐに私たちがいない事など誰も大して気にしなくなるよ」
「主がいない宴席なんて聞いた事もないわ」
非難を込めて睨み付けると、蜂恵は大きな口の両端をぐいっと上げて笑った。
「土が香国で宴席を設けるのは初めてだろ。前例がないのだから私たちのする事がこれからの決まりになる」
「だから?」
「土の花婿と花嫁は煩わしい賓客を饗さない。宴が盛り上がっている隙に消える事にする」
「出来ないわよ、そんな…」
「兎速。君の足の早いところを私に見せてみろ」
蜂恵がまた腕を広げた。
「来い、兎速」
お出でと言われたときと違って、引っ張られるような気がした。名前も一緒に呼ばれたせいか。それとも、蜂恵が言った私たちのする事が決まりになるという、迷いがない言葉に惹かれたせいかも。
気付いたら私は窓枠を蹴って、蜂恵の腕に飛び込んでいた。
私をがっちり受け止めた蜂恵の胸に顔が埋まる。大して年が違わないのに、蜂恵の体は私とは段違いに力強くて硬かった。これが男と女の違いなのかな。ちらっと月狼の武骨な手を思い出す。
蜂恵の体からは日向と草と、土の匂いがした。それに何だか覚えのある甘い匂い。