第1章 駆ける兎の話
そう言えば明日は七姐誕だ。忙しなさに忘れていた。牽牛と織女が夜空の河で逢瀬する日。
…だからかな。雷脚師も、月狼も、だから会いに来たのかな…。
この分なら明日も晴れるだろう。
姉妹皆で四阿に集い、乞巧を願って針に五色の糸を通す。園庭には香木作りの大卓が持ち出され、七姐誕の御馳走が並べられる。
茹だる夏の中にあって皆が楽しみにしている夕涼みだ。
兎速は憂鬱の溜め息を吐いた。
祭事はあまり好きじゃない。祭事自体は興味深いし、本当は楽しみでもあるのだけれども、華やかな席だと他の姉妹たちとの距離がより明らかになる気がして厭なのだ。
まして狼娘の去った後となれば、不愉快な事が起こらない訳がないように思う。香国で迎える最後の七姐誕だというのに…。
…知香…。
知香はどうしているだろう。狼娘と別れの挨拶をしたろうか。あの後、先生とどうしただろう…。