第18章 水竜の娘の過去と始まり
雨は降らず、風も吹かない。天の恵みも暗雲のせいで塞がれている。
枯れた土地に作物が育つ筈も無く、蓬莱の地はだんだんと病んでいった。
終いには国の中で争いが生まれるばかり。
これに当時の王子である若き君主_お父様は頭を悩ませた。
_何としても、海王の恩寵を取り戻さなくては。
お父様はある日の夜、単独で城を抜け出し海王に会いに行った。海王に恵みを授かる交渉をする為だ。
その時、お父様が海王とどのような話をしたかは知らない。分かることは、その日から海王の恩寵を取り戻せた、という事だけ。
_お父様は何を代償に、海王の機嫌を直したのだろう。
私の問いかけるような視線に気付いたのか、水竜は言葉を選ぶように語りだした。
《蓬莱の娘よ…お前は我に貢がれたのだ》
『!?』
“水竜に貢物を捧げる代わりに、水竜は和華の国に天の恵みをもたらしてくれる”
私が…貢物、だと言うのか。
しかし、それなら全ての辻褄が合う。蓬莱の最も濃い血を引き、魔力も有り余るほどある若い器。
これ程上玉の貢物なんて他にいないだろう。
ああ…私は愛した人だけでなく、信じていた親にまで裏切られたのか。
上手く呼吸が出来ない。頬が濡れる感覚がする。私は今、泣いているのだろうか。衝撃が多過ぎて何を気にすればいいのか分からない。
《…蓬莱の娘よ》
『……』
《…おい》
『……』
《暁!!》
『っ…』
ビクリと体を震わせて顔を上げれば、水竜が焦った様な顔でこちらを心配そうに見ていた。
《…ったく、こういうのはオレの性にあわないっつうか…いい加減泣き止め!取って食いやしねぇから》
『え…』
水竜の話し方がガラリと変わった。今まで威厳のある話し方だったが、ぶっきらぼうな口調に変わる…いや、戻りつつある。元々は後者なのだろうか。
《グランディーネの野郎…あいつが二人育てりゃ…つうか女同士なんだからそっちの方が…》
『…水竜様?』
何やらブツブツ呟き始めた水竜。怒らせてしまったのかの凹みながらそっと声を掛ける。水竜は何でもないとばかり頭を振りながら、私に先程と打って変わって何処か気だるげな目を向ける。