第18章 水竜の娘の過去と始まり
『………』
目を開けると、そこには青空が広がっていた。
…いや、正確には“青い世界”が広がっていた。
珊瑚礁に潮の流れ、周りをのんびりと泳ぐ魚達。
寝ている体を起こして辺りを見回す。そしてこの場所は異常なものなのだと改めて感じた。
私は二枚貝を模したベッドに座っており、ふとその辺を見渡すと小魚達が私を遠巻きに見ていた。上を見れば大型の魚が横切っている。
_海底なのに、どうして息が出来るの?
_そもそも何故私は海底にいるの?
頭の中で疑問符が生まれ続ける。
ベッドから降りようとしたその時、小さな影が私に軽く体当たりした。
『わ、…えと…魚?』
それはさっき見かけた小魚達であった。小魚達は私の周りを泳ぎ周り、時々体をつついてくる。
『私、動かない方がいい?』
私の行く手を阻むように泳ぐ小魚達に問いかけると、小魚達は私の頬や手に擦り寄ってきた。どうやら正解だったらしい。
しばらく小魚達とじゃれていると、後ろから大きな魔力がだんだん近づいてくるのを感じた。
咄嗟に後ろを振り向けば、見上げるほど大きな竜(ドラゴン)がいた。
大蛇のように滑らかに滑る体は、あっという間に間を詰め、とぐろを巻いて私を隔離した。
《目が覚めたか。蓬莱の子よ》
『あ、え、あの…』
《…戸惑うのも無理はない。両親から我の事はまだ話されておらぬようだの》
竜は仕方なさそうに首を左右に振る。
…この竜は、私の両親の事を知っているの?
《我と蓬莱は昔から縁があっての。“海王と蓬莱、汝らの縁(えにし)を結びて互いを助けん”。…聞いたことはないか?》
『!…確か、蓬莱王族に代々伝わる古の永約…ですよね』
城の書庫にあった歴史書に記されていた言葉だ。
海王と蓬莱は昔とある交流があり、そこから始まった永い永い契約である。
海王…つまり目の前にいる水竜に貢物を捧げる代わりに、水竜は和華の国に天の恵みをもたらしてくれる。
…しかし私のおじい様が和華の王になった時、その契約は断ち切られた。
_「竜なんぞに頼って生きていくなど、この国に相応しくない」
おじい様は前々から“竜”という存在を疎ましく思っていた。この国に相応しくない、と言うよりは“自分の国に相応しくない”と言いたいのが本音だろう。
その日から蓬莱は悪い波に飲まれてしまった。