第16章 戦いの後で
『出て来て、愛龍。根津校長に挨拶して』
「…んー…」
八雲の影に波紋が起こると、その中から焦げ茶色の毛が見え隠れする。
八雲が影に手を直接入れて“それ”を引きずり出す。
それは__
「……猫?」
『はい。私の相棒愛龍です!』
「なにも引きずり出す事は無いだろ…」
その猫は根津の半分くらいの大きさだった。眠たげに目を擦りながら欠伸をする姿はまさに猫そのもの。…普通の猫は目を擦らないが。
「たしか“エクシード”という猫だったね」
『はい。元々、私達の世界の反転世界である「エドラス」に居た存在なのですが…』
エドラスの事を手短に説明し、愛龍の紹介を簡単に済ませる。根津は興味をそそられたのか、熱心に話を聞いてくれた。
私が愛龍を拾ったのは街中で捨てられた所を見つけたのがきっかけで、しばらく家で面倒を見ていると、いつの間にか彼が住み込み始めた事。
そして拾ってくれたお礼として自分の仕事を手伝ってくれた事。それが長く続き、いつしか無くてはならない存在にまで仲良くなった事。
「僕は彼の事を聞いていないけど…彼が来る事は決まっていたのかい?」
『いいえ。基本、別世界に送られるのは一人だけなんです』
「オレはてめーに一生ついて行く。魔法や体術だって、まだてめーに一回も勝ってねーんだ。勝ち越しされたまんまで死なれてたまるか」
『…だそうです』
だが八雲には分かっていた。愛龍がついて来てくれた理由はそれだけではなく、彼が自分の身を案じている事に。
「でも、“ずっと八雲くんについている”となると、ずっと影の中にいたままではないのかい?」
『まあ、そうですね…でも教室で猫を飼うわけにもいきませんし』
彼は基本八雲の影の中から様子を見ているが、やはり年頃の女の子としては気になってしょうがない。