第4章 インターハイ
「ハッ、、、ハッ、、、」
なぜ走り出したのか、その理由は沙織自身にも分からなかった。
ただ気がついたら身体が勝手に動いていた。
「クソっ!サンダル邪魔だっ!」
沙織はサンダルを脱ぎ捨てた。
行って、、、どうする?
走りながら、そんな疑問が頭をよぎった。
フラフラのアイツに「頑張れ」とか言うつもり?
それとも「お疲れ」か?
、、、はは、陳腐すぎて笑ける。
ケド、、、
ただ、行かなきゃと思った。
何も言えないかもしれないけれど。
今じゃないと、もう、、、
アンタに会えない気がして。
なんだっていいから今すぐ
その生意気な顔を見せてよ。
愛想のない声を聞かせてよ。
沙織は息も絶え絶えに走った。
心臓と肺が悲鳴をあげたが、沙織の足が早く早くと急かした。
ふと、コースの先に見覚えのある青色が見えた。
誰もいないアスファルトの先に綺麗に映える青い色が、涙でぼんやりとしか見えない目に飛び込む。
沙織は涙を拭った。
「荒北、、、!」
その細い自転車の上に見える細い影はフラフラと漂い、今にも倒れそうだ。
分かってるんだ。
アンタがそんなになるまで走ったのは私の為じゃないことくらい。
あんな約束、アンタにとっては重要じゃないってことくらい。
、、、でも、ごめん。
ウザイって分かってても、やっぱり。
アンタがこんなにキツイ目にあってるのに
出てくる言葉は、、、
「キャー!倒れるわよ!!」
誰かが叫んだ。
よりも少し早く、沙織はコースと沿道を分けるフェンスを飛び越えた。
ガシャン!!
地面につく直前、その身体を抱きとめた。
「、、、ッ!」
背中にフェンスが当たったのが分かった。
沙織はその衝撃で一瞬息が止まったが、真っ先に腕の中の身体の無事を確かめた。
ボロボロのユニフォーム。傷だらけの手足。
サラサラの髪はヘルメットの中でクシャクシャになっている。
荒北は目を閉じていた。
「ありがとう、、、」
沙織の目から涙が溢れ、その細い身体を強く抱きしめた。荒北は顔に怪我をしているのか、沙織の白いワンピースに少し血が付いたが、そんなことは気にもならなかった。
抱きしめた瞬間漂った汗の匂いさえ、、、
どうしてこんなにも愛おしいのだろう。
沙織は荒北をさらに強く抱きしめた。