第4章 インターハイ
「ハァ、、ハァ、、」
荒北は疲れていた。
広島に追いつき、どちらかのチームが20メートル引き離されたら、そこで相手を追いかけるのをやめる。つまり先頭争いに参加しないという広島提案のゲームを受け入れた。
今、福チャンがゴールを狙って走ってる。ここで俺が広島を止められなきゃア、広島は京都と協調し、そのままゴールを狙う気だ。
そんな事は絶対にさせられなかった。
サッサと20メートル引き離して、福チャンの所にこの不思議クライマーちゃんを運ばないといけねェ。
なのに、この待宮って奴ァ、意外と根性あるじゃナイの。
荒北は広島のエース待宮という男をなかなか引き離せなかった。それどころか、現在15メートル程離されている。
「フゥー」
溜息とともに目に染みる汗と血を拭う。
先ほど箱学に敵意を剥き出しにした待宮に頭突きをされた時に額を少し切った。
待宮が何故そこまで箱学に敵意を向けるのか、その理由は到底逆恨みにしか聞こえないものだった。
普段の荒北なら毒づき厳しく反論をするだろう。
しかし荒北の顔に浮かんだのは、力の無い笑顔だった。
どうして俺の周りには、こういう奴が集まンだろーなァ、、、嫌がらせかヨ、神様ァ、、、
スタート前、突然現れ「総合1位を取る」と言い放った待宮からは口先だけの嫌ーなドブネズミの匂いがした。しかし今荒々しい表情で本気でペダルを回す待宮からは、過去に縛られ前に進めず周囲に当たり散らす、かつての自分と同じ匂いを感じた。
そしてその匂いを嗅いだ時、あの風になびく綺麗な金色の髪を思い出した。
ハッ、何でテメェが出てくんだヨ、、、
屋上でケラケラと笑う沙織の顔が頭に浮かび思わず笑みがこぼれた。
初めて教室で机に突っ伏して寝る彼女を見た時、何となく自分と似ていると思った。
ひたすら努力してきた奴の匂い。けれどそれが叶うことのなかった悲しい匂いがした。
新開の話を聞いた時、その何となくはもっと強くなった。