第1章 春はあけぼの
「あっ!」
チビ眼鏡がまたページをずらしてテープを貼った。荒北はもう我慢ができなかった。
「このボケナスが!ここはこうやって、こう貼るんだろ!その眼鏡はただのガラスか!んなもん今ここで外しちまえ、バァーカ!」
周りの図書委員が震え上がるのが分かった。
チビ眼鏡は荒北が直したページを見てうつむいている。
やってしまった。つい後輩を叱るいつものノリで怒鳴っちまった。チビ眼鏡、泣くんじゃねーの?
荒北が固まっていると、チビ眼鏡がふっと顔を上げた。
荒北は思わず、ビクッとした。
「荒北くん!ありがとう!本当に器用なんだねっ!いやーすごいなー」
チビ眼鏡は目をキラキラさせて、荒北が直したページを何度も覗き込み笑っていた。
なんなんだ、コイツは、、、
荒北は目を瞬かせた。
「はぁー!やっと終わったねー」
その日の作業が終わる頃、空はもう赤く染まりかけていた。
「ったく、もうこんな時間かヨ!」
荒北は急いで荷物をまとめ、部室へと急いだ。
「あ!荒北くん!」
出て行こうとした背中にチビ眼鏡が声をかける。
「荒北くんのおかげで思ったより早く終わりました。今日はありがとう」
とチビ眼鏡が笑った。
荒北は不覚にもその笑顔に少し見惚れた。
アレ?コイツ、もしかして可愛いんじゃねーの?
しかし不器用なチビ眼鏡に少しでもそんな気持ちを抱いた自分にすぐに腹が立った。
「うるせェ!チビ眼鏡!!べつにテメェのために頑張ってねーし!俺は早く部活に行きてェだけなんだヨ!礼なんて言うんじゃねーバァカ!」
と言い残して、部活へと急いだ。
「チビ眼鏡、、、?」
残された岩元佳奈は、嵐のように去っていった荒北の背中をボーッと見ていた。