第4章 インターハイ
中2の秋には競泳コースの選手と並んで泳げるようになっていた。
その頃からだったと思う。
腰に違和感を感じていた。
でも泳ぐのが楽しくて、もっと勝ちたくて、見ないフリをして練習量を増やした。
そして冬には競泳コースの選手よりも速く泳ぐことができた。それを機にタイムはどんどん伸びた。
まるで水が味方してくれているみたいで、泳ぐのがもっと楽しくなって、誰にも負ける気がしなかった。
そして中学最後の年。
学校には常に沙織の名前を記した垂れ幕が掲げられるようになった。すると自然と煩い陰口は無くなった。けれど
「香田さん、また勝ったんだって?おめでとう!」
は?どこの誰だよ。
「絶対勝ってね!応援してるから!」
いらねーよ!見てるだけの奴に応援される筋合いなんてねーんだよ。
「頑張ってね!」
あれ?アンタ、調子乗ってる奴は嫌いじゃなかったっけ?
周りはさらに煩くなった。
その声はレースに出る度に大きくなった。
ただ水の中にいる時だけが静かだった。
そして夏、やっと全国の切符をつかんだ。
直前のレースでは十分、全国でも戦えるタイムだった。
なのに、全国大会の直前、私の腰は壊れてしまった。
手足が痺れて泳げなくなった。
医者は2〜3ヶ月は水泳はおろか体育の授業も休むように言った。
「は!?それじゃ全国に間に合わないんですけど!」
「何言ってるんだ?そんな大会になんて絶対に出てはいけない。そもそもそんな身体じゃ泳げないだろう」
「そんな、、、」
「君ね、これは完全にオーバーワークだよ。コーチは何も言わなかったのかい?」
コーチ?そんなのいないよ。
私はずっと1人で泳いでたんだから。
その時から世界が一変した。
「香田さん、全国出れないんだって?」
「マジで?垂れ幕代返せよ!笑」
応援するからと騒いでた奴らはやっぱり敵だった。