第4章 インターハイ
インターハイ最終日。
午前8時。沙織は駅前のロータリーで巧が来るのを待っていた。今日は遠出するからと巧がこの時間を指定したのだった。
「ふぁーあ」
大きな欠伸が出た。
夏休みに入り、すっかり朝寝が習慣になった沙織にはこの時間は正直キツかったが、早起きをした。
早起きをして、メイクをして、女性らしい服を着る。
それが巧とデートする日の沙織の習慣。
巧と2人で出掛けるようになってからの沙織の習慣。
そして2倍近く年の差がある巧と並んで歩く為に揃えた、少し大人びた服に手を通すたび、沙織の心は踊るのだ。
だが今日だけはまるで心にモヤがかかったように、沙織の気持ちは沈んでいた。
今日も暑くなるな、、、
ボーっと晴れた空を見上げてそんなことを思っていると、目の前に赤いSUVが止まった。
この車に乗って色んな場所へ行った。この車の中で朝まで話したこともある。
「おはよう!」
窓を開けた巧はいつも通りにこやかだ。
シンプルな白Tシャツに薄手のカーディガンを羽織り、ダメージジーンズを履きこなす姿は爽やかで、巧によく似合っている。
「おはよ。今日はどこに行くの?」
助手席に乗り込み、沙織は尋ねた。
「んー、秘密!でも良い所だよ」
巧は目を細めて笑った。
「えー何それ」
掴みどころのない、そんな所も大好きだ。
沙織も笑った。