第4章 インターハイ
「あーハラヘッタ!ハラヘッタ!」
「お、沙織。おつかれさま!今日もコンビニ弁当?」
休憩へ向かおうとする沙織に巧が声をかけた。
「おつかれでっす!はい!今日もいつもの唐揚げ弁当買いに行ってきますっ!」
他の従業員もいる前なので一応敬語で話す。
「気をつけて行っておいで」
そう笑顔で言って巧は仕事に戻った。
「行ってきます」
仕事に向かう背中を見つめると、自然と笑顔がこぼれた。
どんなに忙しくても巧は従業員への声掛けを忘れない。そんな店長だ。
そういう所も沙織には無いものを持っているようで尊敬してる。
付き合おう。
そういう明確なものを沙織は巧からもらっていない。この関係は沙織が高校に入ってすぐ今まで積み上げてきたもの全てを失くして腐っていた時に、巧が自分の店でバイトをしないかと声をかけてくれた時から始まった。
どうしてあの時、髪を金に染め、学校にも行かず周囲に当たり散らしていた自分を店に置こうと思ったのか。
そう聞いた時、巧は優しい目をしてこう答えた。
「沙織ちゃんが寂しそうに鳴いている捨て猫みたいだったから拾わずにいられなかったんだよ。僕は猫派だから」
ハァ?猫?
意味がわからない。
何だこのヘラヘラしたオッサン。
そう思った。
でも柔らかな物腰の巧は、沙織が当たっても何をしてもヒョイヒョイとかわして、いつも笑ってた。
そんな巧に当たり散らすのもバカらしい、そう思った時にはもう巧の事を好きになっていたのだと思う。
巧といると全て忘れられる。
全て忘れて、新しい自分になれる。
いつしかバイト仲間とも話すようになり、ここは沙織にとって特別な場所になった。
全てはこの人のおかげ。
沙織は巧といると不思議と穏やかな気持ちになる。それがとても心地イイ。
ずっと、この人の側にいよう。
この人の隣で幸せな女になる。
できることなら、この人の最期の時まで。
そう思っていた。