第3章 夏は夜
「あー!うめぇ!!」
夏休みに入り、インターハイを目前に控えた自転車競技部はこれまで以上にハードな練習を行っていた。
午後の練習を終えた荒北は学校に戻り、ベプシを飲んでいた。時刻はもうすぐ19時。練習後は空腹になる。本当はパンでも買って食べたいところだったが寮に帰れば夕飯があるので我慢した。
「腹減ったなぁー早く帰ってメシ食べヨ」
愛車のビアンキに乗り、校門をくぐろうとした時、目の前に見覚えのある後ろ姿があった。
「あンの野郎、、、」
舌打ちをしてその後ろ姿を追う。
「おい!チビ眼鏡!!」
「うはぁっ!え!!荒北くん!?なんでここに?」
驚き振り返ったのは佳奈だった。
「なんでじゃねぇ!テメェこそ何でこんな時間に学校いンだよ!しかも今は夏休みだろーが」
「あ、あの、えっと図書室で受験勉強をしていたら、気づいたらこの時間で、、、でもまだ外も明るいし、大丈夫!」
佳奈は頭を掻きながらへへと笑った。
「ハァー」
荒北は大きく溜息をついた。
まったく、コイツには危機感てモンが無さすぎだろ。
フツー一度襲われたことのある道を1人で歩くか!?
ただのバカなのか、、、?それともめちゃくちゃ勇敢なのか、、、
いや、やっぱり
「バァカが!今は明るくてもこんなの一瞬で暗くなンだ!、、、駅まで送る、、、」
荒北は佳奈の顔は見ることができなかった。
しかし佳奈がポカーンとしているであろう事は分かった。
「い、、、いやいや、大丈夫だよ!荒北くん、練習で疲れてるんでしょ!今日、一日中走ってたし!!」
焦って答えた佳奈の言葉に荒北は怪訝な顔をした。
「は? 何で一日中練習してたこと知ってンだよ」
「あ!!えっとたまたま図書室の窓から自転車部の様子が見えて、、、その、別に見てたわけでは」
佳奈は口をパクパクさせて、金魚のようだ。
「ハッ!」
荒北はその様子に思わず、吹き出した。
コイツは、本当にバカだナ。
チラリと隣を歩く佳奈を見る。
何か言い訳でも考えているんだろう。
目を回して、わけのわからないことを喋り続けている。
その様子に思わず笑みがこぼれる。
どうしてコイツといるとこんなにも心が満たされるんだろう。
渇いた喉も飢えた気持ちも全部丸めこまれて、何か温かいもので満ちていくんだ。
荒北は佳奈といる時、自分が穏やかな気持ちになることに気づいていた。