第3章 夏は夜
「ねーねー、沙織ちゃん!お願い!」
「だーから、考えとくって!」
「それって当日まで返事もらえないやつじゃない!」
佳奈がテーブルをドンと叩いた。
2人は沙織のバイト先で先ほどの話をしていた。
「佳奈ちゃん、珍しく熱くなってどうしたの?」
カチャと冷たい音を立てて、グラスに入ったパフェがテーブルに置かれた。
「わ!店長ーありがとうー!美味しそうっ!」
沙織は早速スプーンでバニラアイスをすくった。
「あ、あの、これは、、、」
佳奈は頼んでいないのにと戸惑い、ウェイター姿の巧を見上げた。
「大丈夫だよ。僕のサービス」
「えぇ!そんなの、いいんですか!?」
「いいんだよ。可愛い佳奈ちゃんへのプレゼント」
そう言って巧はニッコリと笑った。
巧はもうすぐ40歳になる所謂いい歳をした大人だったが、身体は程よく鍛えられて逞しく、笑った時にできる目尻のシワが大きな奥二重を優しく見せ、大人の渋みと少年のような可愛らしさを備える男だった。
「あ、ありがとうございます」
佳奈はその笑顔に思わず顔が熱くなり、すぐに目を逸らした。
「可愛いのは佳奈だけかよ」
沙織がいじけたように呟いた。
「沙織も可愛いよ」
不貞腐れた沙織の頭を大きな手が優しく撫でる。
あれ?
佳奈はその様子にドキリとした。
これって、店長とアルバイトというよりも、、、。
2人に見惚れていると振り向いた巧と目が合った。
「ところで、何の話をしてたんだい?」
「あ。沙織ちゃんが、うちの自転車部のインターハイの応援についてきてくれないんです。こんなにお願いしてるのに、、、」
「それは、、、沙織、店のことはいいから行ってあげたら?」
巧は苦笑した。
「えー、でも私、、、、暑いの苦手だし」
沙織はそっぽを向いた。
「荒北くんも出るんだよ!」
「荒北くん?」
少しだけ驚いた顔をした巧を見て、沙織は焦った。
「ク、クラスメイト!ただの隣の席にいる嫌な奴だよ!こら、佳奈!アンタが見たいのは新開でしょーが!」
「新開?」
再び、巧は頭を傾げた。
「佳奈の好きな人」
「沙織ちゃん!!!!」
佳奈はガタンと音を立てて、立ち上がった。
沙織はニヤリとした。これは、荒北の名前を出した佳奈への仕返しである。