第3章 夏は夜
「靖友、もう一周行かないか?」
いつもの練習コースを一通り回った後、新開が荒北の肩を叩いた。
「おっ!いいぜェ。」
荒北はそう答え、新開とともに颯爽とコースに出た。
「インターハイまでもう少しだな」
「あぁ。早く掻っ食ってやりてェ!」
荒北は去年の秋から福富と組むようになってからは今まで優勝を逃したことがない。インターハイ自体に出るのは初めてだったが、その瞳は自信で満ちていた。
「実はさ、沙織ちゃんに見に来てもらえるよう頼んだんだ」
「はぁ?」
荒北は心底意味が分からないといった顔をした。
新開は東堂と違って、自分と同じく応援など求めていないと思っていた。しかも何故相手が沙織なのか荒北には全く理解できなかった。
「まぁ、あまり良い返事はもらえなかったんだけど」
そう言って新開は少し笑い、荒北の前に出た。
荒北にはその表情は見えなかった。
そういえば、水泳の時もアイツのことで突っかかってきたな。
「、、、何で、アイツにそこまでこだわンだよ」
荒北はすぐに新開の横についた。
新開はまっすぐ前を見ていた。
「俺さ、実は高校に入って同じクラスになる前にも一度、沙織ちゃんに会ってるんだよ」
新開は少し遠くを見るように空を仰いだ。
その日はちょうどあの日のように蒸し暑い日だった。