第3章 夏は夜
「佳奈ー!帰るよー!」
その日の放課後、沙織は佳奈を教室まで迎えにいった。佳奈に友達ができたと聞いてから、しばらく教室ではなく外で待ち合わせをしていた。しかし今日は違う。
「あ!沙織ちゃん!私帰るね!」
クラスの女子と話していた佳奈が沙織を見て、扉まで駆けてきた。その笑顔はいつも通りだ。
女子達は沙織を見て一瞬眉をひそめたが、沙織はそんなことも笑って見ないフリをすることができた。
そんな自分が少し誇らしい。
「あれ?沙織ちゃん、今日は何だか嬉しそうだね。良いことがあったの?」
「うん、まぁね」
ふと荒北の顔が浮かび、自然と頬がゆるんだ。
「もしかして、荒北くん?」
「ハァ!?何でっ!!」
沙織は動揺した。
「なんとなく。荒北くんて、いい人だよね」
「どーこがっ!あんな乱暴な奴!」
「あ!荒北くんだ!」
「は!どこ!?」
沙織は焦った。緩む頬がまだ戻っていなかったからだ。
佳奈はその様子をみてクスクスと笑い、窓の外を指差した。しぶしぶ窓の外を見ると、ちょうど自転車競技部が校門を自転車で滑るように出て行くところだった。
何故だろう、、、
あんなにたくさん走っているのに、沙織はすぐに荒北がどこにいるかが分かった。
青くてピカピカの、荒北には不似合いな綺麗な自転車。
それを乗りこなす背中を見て、少し鼓動が早くなった。
「新開くんもいる、、、」
佳奈が小さく呟いたのを沙織は聞き逃さなかった。
西に傾きはじめた太陽が窓ガラスに反射して眩しい。
それでも佳奈と沙織はしばらく窓の外を眺めていた。