第3章 夏は夜
「あー!!きっちぃ!!、、、ベプシでも買いにいくか、、、」
ローラーをまわし終えた荒北は、フラフラとした足取りで外に出た。
ガチャ
部室の扉を開けると、真っ暗な中に新開が立っていた。
「なんだァ、新開か。まだいたのかヨ」
「あぁ、靖友。うん、帰ろうとしたらお客さんがいてさ」
「客?何だそれ。」
「秘密。今からベプシ買いに行くのか?」
「そっ。練習終わりはベプシに限るぜ」
「付き合うよ。俺も緊張して喉が渇いたし」
「アァ?テメェが緊張なんざ珍しい。よっぽど偉い客だったんだナ」
荒北はニヤリと笑った。
「うん、VIPさ」
茶化したつもりが思ったよりも真面目に答える新開に、荒北は少し驚いた。
「へぇ。俺ァ、そーゆーの分っかんねぇわ」
ガシャン
荒北は自販機からベプシを2つ取り出して、片方を新開に手渡した。
「さんきゅ。そんな靖友が羨ましいよ」
新開はプシッと音を立ててベプシを開け、一気に半分飲み干した。
「そーか?俺ァ、なれるもんならテメェみてーになりたかったよ」
誰からも好かれる。いや岩元佳奈の視線を奪うお前みたいに。
荒北はあと残りわずかになったベプシを飲み干して、空を見上げた。
梅雨の雲にボヤけていたが、丸い綺麗な月が光る静かな夜だった。
虫の音がもうすぐやってくる暑い季節を知らせていた。