第3章 夏は夜
「ねーねー、やっぱり新開くんてカッコいいよねー」
沙織は女子達の話し声でハッと我に返った。
「だね!あの鍛えられた身体!」
「水着姿を見られるなんて、同じクラスで良かったー」
「その発言ヤバイって!ってか、また今年もインハイ出るんだっけ?」
「うちは常勝校だからね!今年も優勝決定でしょ!」
「はぁー、すごいね。応援行かなきゃっ!」
「あっ!私も行くー!」
うん、やっぱりそうだ。
私が応援に行かなくても、きっと大勢の応援がいるんだろう。あれは、新開の建前というやつだったに違いない。
沙織はホッと息を吐いた。
それにしても、、、ぷぷっ。
荒北のやつ、同じ自転車競技部なのにこの女子達の反応の違い。
新開に比べると細身ではあったが、荒北も鍛えられた身体をしていた。しかし荒北の話題を口に出す女子は、沙織の知る限りこのクラスにはいなかった。
沙織は荒北の仏頂面を見て、少し同情したいような可笑しいような気持ちになり、笑いを堪えることができなかった。
するとそれを察知したかのように荒北が突然、沙織を見た。
目が合うと同時に荒北が舌打ちをしたのが見えた。
ハァ!?何なんだ、アイツは!!ちょっとでも可哀相だなんて思った私がバカだった。やっぱ相当感じ悪いわ!
すでに荒北は沙織から目を逸らしていたが、沙織は荒北に向かって中指を宙へ突き立てた。
空は晴れ。
箱根の山にはミンミン蝉の声が響いていた。