第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
「見せてやんよ!!俺の本気の走り見て、ビビんじゃねェぞ、金城!!」
背中で半分やけっぱちのような濁声が聞こえた。
「くくっ、、、」
その声に思わず胸が躍る。
この夏が楽しみだ。
まぁ、アイツには決して言ってはやらないが。
俺は不安そうに俺たちの様子を眺めていた彼女に、こっそり後ろを指差して溜息を吐いてみせた。
「、、、だとさ。全くアイツを手懐けるのにはこれからも苦労しそうだ」
「、、、」
香田さんは俺の意図が読めないのかキョトンとしている。
「本当に君はあんな男のどこが良かったんだ?全く良い趣味とは言えない」
「テメッ!コラ!金城!!聞こえてんぞ!!」
後ろの方で荒北が騒がしい。
「しかも地獄耳だ」
まったく、、、これは俺と香田さんの会話だと言うのに。
俺は一呼吸置いてから彼女に一歩歩み寄った。
「ここからはアイツには決して聞かせたくないから声を落とすが、、、」
近づくと香田さんの瞳がキラキラと輝いているのがよく見えた。
「レースで見た奴の走りはいつもキレがあって、何の迷いも恐れもない。ただ前しか見ていない奴の走りは競合する立場からするととても手強い。なのに仲間になったアイツは、、、」
汗をかいた背中を5月の乾いた風が通り抜ける。
その心地よさは俺の口を自然と動かした。
「人の言うことは聞かず突っ走る。かと思えば突然フラフラとサボる。乱暴者で傍若無人なように振る舞っている癖に、とても繊細で何かがあるとすぐに走れなくなる、、、全く使いにくい。アイツは前からそうなのか?」
わざとらしくへの字に曲げて見せた唇。
そんな俺の顔を見て彼女が
「、、、ぷぷっ」
笑った。