第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
少しの間を置いて金城が瞬きをして、俺から視線を外すと、それまでの空気が少し緩んだ。
「、、、。彼女が待ってる、ずっと。早く行ってやれ」
「、、、ああ」
金城に言われて背中越しに目をやると、アイツの不安そうな顔が見えた。
「俺は探し物があるから、じゃあな」
そう言って背を向けようとする金城。
「オイ、コラ金城!」
俺はずっと右手で持っていたそれを、金城に向かって投げた。
「ん?」
わざと力任せに投げたそれをパッと何でもない風に受け取る金城。
、、、ったく。そういうトコロだぜ?
「これは、、、」
「講義室出てすぐのトコに落っこちてたぜ」
「そうか、、、ありがとう」
「ッセ!これで借りは返したからナ!」
バァーカ!素直に礼とか言ってんじゃねェ。
そういうトコもムカつくんだっての。
「借り?」
受け取った財布をポケットにしまいながら、不思議そうに大きな目を開く金城。
あぁー、ったく。どこまで人を苛つかせたら気が済むんだヨ!ワザとか!!
「アイツを引き留めてくれてたことだよ!」
クッソ、こんな事わざわざ言いたかねェンだヨ!空気読め!バカ金城!
「、、、チッ!一応、礼ぐらい言っとかなきゃ気持ち悪ィからナ」
「あぁ、はは。くくっ、、、そういうことか」
「ンだよ!笑ってんじゃねェ!」
一瞬固まった後、小さく吹き出して笑う金城。
、、、マジでムカつく。
「だが、俺は何もしていない。全部お前と彼女の中で決まっていたことだろ?」
「、、、どうだろうな」
正直、金城がいなきゃ俺達は終わっていたような気がした。
金城の言葉に胸の奥が重くなって、俺は思わず空を仰いだ。
ウジウジして気持ち悪ィ俺の心とは裏腹に、どこまでも青く澄んだ初夏の空。
本当に嫌気が差す。
「だが、お前がそれでもちゃんと借りを返さなくては気持ち悪いと言うなら」
「って、まだ何も言ってナイんだけどォ!っつか、財布を見つけてやったんだからちゃんと借りは返してるっつーの」
「夏までに気合を入れ直せ。2人で先輩達を見返すぞ」
「って、無視かヨ!?」
「それと、もう二度と彼女の手を離すな」
「、、、あ?」
「どうやら彼女と何かあると、お前は走りにキレが無くなるみたいだからな。それでは俺が困る」
「ハッ!結局テメェの為かよ!」
ニヤリと笑って嫌味を言う。