第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
「私、アイツに一歩でも近づきたいから」
驚いた。
学内を走りまくってアイツを探した。
金城と出て行ったあの背中が何度も浮かんで、その度に最悪な事ばかりが頭をかすめた。
もう、ここには居ないのかもしれない。そう思った時、目の端に入っただけで分かる後ろ姿を見つけた。そしてその瞬間、そんな言葉がアイツの声でやけに鮮明に耳に入ってきた。
耳を疑った。
まさか、おんなじこと考えてたなんて。
沙織。
ずっと、俺だって近づきたいと思ってたんだ。
もっと、もっと。
だけどアイツからはそんな感じ、全然しなくて。
不安になって。
遠ざけて。
いつだって追いかけてるのは俺の方で。
近づきたいのは俺の方で。
名前で呼ぶのは俺だけで。
いつの間にか、俺1人だけが好きなんじゃねぇの?って。
「わっ、私も、話したいことある、、、待ってる!」
上ずった声に期待して。
待ってる、その言葉にこんなにも救われる。
「、、、ホントにバァカだ」
コイツは元々素直に甘えてくるタイプじゃねぇ。
それでも、照れながらでも、必死で何とか伝えようとしてくる姿に何度も俺はこの胸を掴まれたはずなのに。
「何をにやついている?」
その低い声に前を見据えると、愛想もクソもねェ無表情。
「にやついてなんかねェヨ」
その顔にこのふわふわした気持ちを悟られまいと、俺はいつも以上に口角を下げて、足元に生える長い雑草を軽く蹴った。
「お前がもたもたしている間に、彼女から色々聞いた」
「ハァッ!?」
一体どんな話を、、、?
「、、、泣いていた」
「、、、」
ああ、、、イテェ。
「あの講義室で彼女が、どんな気持ちで居たか。分からないとは言わせない」
分かってる。
俺なんかよりもアイツの方が痛かったはずだ。
「、、、」
返す言葉もねェ。