第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
「私さ、付き合ったのはアイツが初めてじゃないんだけど、何でかアイツとだと手を繋ぐのでさえ緊張しちゃうんだ。前の人の時はもっと素直になれたのに、、、」
話しているうちに彼女の背中は段々と丸まっていって、ついにその膝に顔を埋めてしまった。
「本当はさ、一緒に講義だって受けたい。一緒にお昼食べたり、普通のカップルがするようは会話もしたい。それに手だって繋ぎたい、、、だけどそんなこと言ったらアイツがどんな顔するか怖い。元々、私、そんなじゃないし、、、気持ち悪いって思われるかも、、、とか考えて、、、」
彼女の言葉が詰まっていく。
「嫌われたくないのに、アイツのこと名前で呼ぶこともできなくて、、、焦っていつも通りにすればするほどダメで、、、アイツだって言葉数が減ってきて、、、」
「名前、、、?」
「認めたくないけど、やっぱり私とアイツじゃダメなんじゃないかって、アイツにはもっと可愛いらしくて、大人しい子が合ってる気がする」
「、、、」
そこまで言って彼女は完全に沈黙してしまった。
もしかすると泣いてしまったのかもしれない。
だが俺は諦めるつもりはなかった。
「俺は誰かと付き合ったことはない」
「、、、」
「ずっと自転車しか乗ってこなかったから、君が今悩んでる思いも抱えたこともない」
なぜなら俺は知っているから。
アイツがどれだけ彼女のことを思っているか。
彼女がどれだけ荒北のことを思っているか。
「だが、1つだけ、そんな俺でも分かることがある」
あの日、夕方の部室で2人を見て分かったんだ。
彼女はアイツといることが1番幸せなんだと。
そう感じたからこそ、すぐに諦めがついた。
「初めからうまくいくことなんて無い」
それをこんな事でダメになどさせはしない。
「うまくいかなくても、それでも続けていきたいかが大切なんじゃないか」
俺が諦めただけの結果になってくれなければ困る。
「辛くても苦しくても続けたいから努力する。俺はそうやって自転車と向き合ってきたつもりだ」
そうでないと報われない。
「君は、、、辛かったら苦しかったら、諦める人間なのか?荒北は君にとってそんなことで諦められるような人間なのか?」
俺がアイツだったら、そんなことで諦めてほしくない。
せめてその前に話してほしいと思うはずだから。