第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
「うーん、、、なかなか無いなぁ」
来た道を戻りつつ辺りを見回しながら彼女が唸る。
道の真ん中から端、草陰だって見たが俺の財布は見当たらなかった。
「、、、無いな」
俺は額の汗を拭いながら呟いた。
まだ5月半ばだというのに強い日差しの下は、まるで真夏のように暑かった。
「もうちょっと向こうの方も見てくる!」
きっと彼女だって暑いに違いない。
しかし彼女は俺の言葉を取り消すように語気を強め、その長い綺麗な髪を耳にかけ直して駆け出そうとした。
キュッと頑固に結ばれた口元を見て、俺の身体は勝手に動いていた。
ギュッ
「、、、!?」
「、、、。」
彼女の細い手首を握ると、彼女は驚いたように振り返った。
「えと、、、何?」
「中身は大して入ってない。カードも持っていないし、無いなら無いでいい」
「そんな!」
彼女は今にも泣きそうな顔で俺を見た。
「ありがとう。あまり親しくもない俺の財布を諦めずに探してくれて。感謝している。けれどもっと諦めずに向き合うべきものがあると思う」
「え、、、?」
俺はまた消えてしまいそうになっているその細い手首を確かめるように強く握った。
「俺の財布はもう諦めてもいいが、荒北のことは諦めてはいけない」
「、、、ッ!」
一瞬、彼女の表情が固まる。
大きく見開かれた瞳が戸惑うように俺を見て、すぐに視線を逸らした。
「だって、私のせいじゃん。私のせいで金城サンの財布が無くなったなんてイヤだし、、、」
彼女はアイツのことには触れようとしなかった。