第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
それなのに、
どうして今こんな状況になっているんだ?
俺は券売機で何を買うか迷っている彼女を見ながら思った。
どうして奴は元気が無い?
どうして香田さんが大衆の面前で泣いていても奴は何も言わない?
どうして目を逸らした?
どうしてそんなことができる??
「、、、っ!ねぇってば!!」
「えっ?」
無意識に握りしめていたらしい拳に、何か柔らかいものが触れて俺はハッと我に帰った。
下を見ると彼女が俺の手を揺すっていた。
「えっ?じゃないよ!ずっと話しかけてんのにボケっとしちゃって」
「あ、あぁ、、、すまない」
なんかさっきの爆笑から急に距離が近くないか?
俺は眉を釣り上げて怪訝な顔でこちらを覗き込む、香田さんの顔から目を逸らした。
「まったく、、、で、持ってる?」
「?何を?」
「やっぱボケっとしてたんじゃん!だから、財布!お金持ってるって聞いてんの?」
「え、、、?」
「私、教室に荷物全部置いて来ちゃったみたいだから」
「あ、、、そうか」
俺は自分が突然彼女の手を引いて出てきてしまったことに気がついた。
「そうだったな。すまない。俺が出そう、えっと、、、」
「ありがとう。後で返すから」
微笑む彼女を見ながら俺はジーンズの後ろポケットに手をやった。
財布はいつもここに入れてある。
俺も荷物を置いてきてしまったが、大丈夫だ。
財布だけはいつも肌身離さず持っている。
そう、持っている、、、。
持っている、はずだった。
「、、、?」
「、、、無い」
「え、、、?」
「財布が無い」
「ええ〜!?」
「恐らく、どこかに落とした」
「、、、っ、マジかぁ」
天を仰ぐ香田さん。
「すまん、、、」
情けない。
彼女を勝手に連れ出して、荷物を置いてこさせ、食堂に行こうと提案したあげく、財布はない。
情けなくて合わす顔が無い。
パタパタ。
黙り込む俺を放って彼女はどこかに走っていった。
「、、、。」
それも仕方ない。
呆れてどこかに行ってしまったのだろう。