第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
何がなんだか分からない。
普通に挨拶を交わしたと思ったら黙りこくったり。
少し気になっていたことを聞いたら、いきなり怒鳴って、涙を流したり。
そして今はムッとしたかと思った途端、可笑しそうに笑う。
女性というものは複雑だ。
「うーむ、、、」
俺は自分の右手を見て唸った。
どうして突然彼女の手を引いたのか。
自覚はある。俺はこういうことに疎い。
ただ反射的に分かったのは、このまま彼女をあの場所に置いておけないということ。
幻だったのだろうか。
あの一瞬、この人の肩がとてもか細く、今にも消えてしまいそうに見えたのは。
だからなのか。
反射的に手を引いて。走った。
人混みを抜けて、とにかく彼女を目立たない場所へと。
しかし落ち着いて見てみると、その肩は水泳部らしく適度に張りがあって、少し走ったのに息一つ乱していなかった。
そんな姿に心からホッとした。
良かった。消えてしまわなくて、、、と。
何があったかは知らないが、恐らく彼女が怒鳴った原因は俺の質問だと思う。
あの時、後ろの席に座る荒北と目が合った。
ヤツはすぐに目を逸らしたが。
何か気まずいことがあるのだろう。
思えば、ヤツはここの所おかしかった。
しかしヤツは何も言わない。
その原因を彼女なら分かると思った。
しかし色々と配慮に欠けていたらしい。
「うむ、、、」
まさか涙するとは思わなかった、、、。
とりあえず学生食堂で時間を潰すことになり、隣を歩く彼女を見て俺はまた唸った。
彼女は同じ学部の同級生だった。
入学式の時、隣だったから覚えている。
春の柔らかな陽射しに照らされてその茶色の髪が輝いて目を奪われた。意志の強そうな大きな瞳で前を見つめる姿は、何かを決意したようで、彼女の周りだけ違う空気が流れているような気がした。
学長が話をしているのを聞いている横から、「なぁ、あの子綺麗じゃね?」という小さな声が聞こえた。
チラリと見ると男子生徒たちが彼女を見ていた。
そうか。彼女みたいなのを綺麗と言うのか。
ただの感想だった。