第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
金城サンは私の手を引いて、足早に講義室を出た。
その手は大きくて、温かくて、力強い。
この場所に居たくない。
あの女の声も聞きたくない。
荒北にこれ以上見られたくない。
そう思った瞬間に引っ張られた。
その大きな背中は何も言わない、その横顔はいつものポーカーフェイスだ。
ホント何考えてんだろ、、、
視界が滲む私をよそに、金城サンはただ早足に人混みを抜けて歩き続けた。
そして校舎の裏まで行くと、スッと足を止めた。
「、、、ここまで来たら大丈夫だろう、、、」
普段鍛えているからだろう。彼はいつも通りの顔で周囲を見回した。
「、、、っ」
私は悔しいことに俯くことしかできなかった。
「、、、はは、さすが水泳部のエースだな。強い。息一つ乱れていない」
「それ、今言う、、、?」
「え、、、?」
「ってか強いって、、、曲がりになりにも女子に向けて言う言葉、、、?」
「す、すまない。褒めたつもりだったのだが、、、」
本当に彼に悪気は無いのだと思う。この困惑した顔が言っている。
普段の私ならば今の言葉は褒め言葉として受け止められたかもしれない。
だけど今の私に“強い”はキツイ。
「はぁ、、、」
思わず出た溜息に、あたふたする金城サン。
こんな姿初めて見た。
「ぷっ。それ、たぶん女子を励ます言葉じゃないよ」
「そう、、、なのか?」
もっとスマートな人だと思っていた。
金城サンは頬をポリポリと指で掻いて困った表情だ。
その様子に私の涙は引っ込んで、つい笑ってしまった。
「全く、、、こういう時はまずは私の心配とかするもんだって」
「そうか、、、大丈夫か?」
「遅いっつーの!!(笑)」
「す、すまん」
さっきは私がピンチの時にはサッと手を引いたくせに。
もしかして何も考えていなかったのだろうか。
「、、、ぷぷっ、もう、、、だけど、ありがとう」
「、、、。どこかで時間を潰さないとな」
私の言葉には反応せずに金城サンは顎に手を当てて難しい顔をしている。
まったく、本当に何を考えているんだろう。
私の精一杯の笑顔にも。
この人の不器用な言葉に救われたという思いにも。
苦手だと思っていたことを少しだけ後悔していることも。
本当に感謝をしているこの気持ちにも。
たぶん、この人は気がついていない。