第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
金城サンを横目で見ると背筋をピンと伸ばして座っている。
もうさっきのことなんて頭に無いような顔をして。
同じ学部だから授業が被ることが多いけど、いつもこの人はこうだ。
いつも真面目な顔をして、無口で、表情1つ変わらない。
正直、何を考えているのか分からない。
荒北がいない時、私はこの人と何を話していいか分からない。
「「、、、」」
チラリと様子を窺っても、やはりいつものポーカーフェイス。
何となく気まずいのは、私だけだろう。
「「、、、」」
荒北がいてくれたら、、、な。
金城サンに朝から突っかかる荒北。
金城サンと真剣に部活の話をする荒北。
金城サンと嬉しそうに笑い合う荒北、、、。
浮かんでくるのはアイツのことばかり。
ツンと痛い何かが、また込み上げてきそうになった時、
金城サンが口を開いた。
「、、、今日は荒北の隣じゃないんだな。アイツは?」
「しっ、知るか!あんな奴!」
ガタン!
思わず席を立った。
自分でも驚くくらい大きな声が出た。
「、、、そうか」
金城サンは一瞬目を丸くして驚いていたが、すぐに冷静な表情に戻った。
その視線はチラリと後ろを見ていたから、何か勘付いているのだと思う。
そのことが余計に恥ずかしくて、顔が熱い。
本当は知ってるんだ。
アイツが今どこにいて、どんな人とどんな話をしているのか。
聞きたくないのに勝手に入ってくる。
笑い声が響く度に苦しくて。
本当ならそこにいるのは自分なのにって、卑屈になってる。
全部分かってるのに、金城サンの指摘すら、悔しくて、大声で搔き消した。
「えっ?何々?あれって靖友ちゃんの彼女じゃない?」
「、、、」
「ケンカ、、、?」
私達のやり取りに騒つく講義室。
荒北の隣に座る女子の声がした。きっと荒北もこちらに気がついているだろう。
怖くてそっちを見ることはできなかった。
ただアイツがいてくれただけであんなに明るかった講義室。
あんなに楽しかった時間。
忘れてた。アイツがいないだけで、この世界はこんなに暗くて、息苦しかったことなんて。
何だかんだと温かく見守ってくれてたその視線も今はこんなにも冷たく感じる。
「、、、ッ」
思わず涙が溢れた。
その時、
「行こう」
静かな低い声に引っ張られた。