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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない


うまくいってると思ってた。
GWが始まる前までは。


色々あったけど、あの日を境に一応そういう関係になった私達。
私の後期試験の合格発表も荒北は隣にいてくれたし、引越しだって文句を言いつつ手伝ってくれた。

大学が始まってからも、部活の報告をしたり、お互いの学部のこととかを一緒に帰りながら話したりしていた。


「あのさ、私達って付き合ってる、でいいんだっけ?」
ふと巧とのことを思い出して不安になった私は、そんなことを聞いた。

「ハ!当たり前だろ。何寝ぼけたこと言ってんだ、バァーカ」
荒北は本当に馬鹿げたことを聞かれたという風に鼻で笑って言った。
ムカつく顔だったけど、すごく嬉しかった。

「、、、だからテメェも俺のこと、名前で呼べよな」

嬉しくて、そうボソリと低い声で放たれた荒北の言葉を、はしゃいだ私は軽く聞き流した。

「えー?下の名前?何だっけ?」

「はぁ?靖友だ!や、す、と、も!!知らねェとかあり得ナイだろ!!」

嬉しくて、気恥ずかしくて。

「仕方ないじゃん!今まで呼んでなかったんだし」


これまで私にとって、荒北は荒北で。

こんなやり取りでさえも、何だかくすぐったくて、幸せすぎて、誤魔化した。




それでも伝わると思ってた。
名前なんて呼ばなくたって。


目が合った時の視線から。
話す言葉尻から。
繋いだ手から。




アンタのことが、大好きだって。








思い当たる節が無いと言えば嘘になる。

「荒北、この授業取るナントカってサイト、使い方分かる?」

「バァカ、そんな事も分かんねェのかヨ」

「荒北、お腹減った」

「知るか!俺はテメェの母ちゃんじゃねェぞ、コラ」

「荒北、ここ教えて」

「、、、ヤダ」

「荒北、あのさ、、、」

「、、、知らねェ」

「荒北、、、」

「、、、」

気付いていた。
段々と短くなっていくアイツの返事に。




簡単なことだとわかっていた。
何てことはない、名前を呼ぶだけ。
佳奈を呼ぶみたいに。



それでも私は頑固で。




「やすとも、、、待って」




アイツの前でも、こんな風に言えたらいいのに。




小さく呟いた声はもうアイツには届かない。

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