第12章 AfterStory 隣の彼は返事をしない
5月。
むず痒い季節を通り過ぎて、少しだけ夏の香りがするようになった。
私は何とか後期試験で合格をし、この1ヶ月を洋南大学で穏やかに過ごしている。と言いたいところだけど、、、
「あ、荒北!おはよう!!朝練おつかれ!1限目同じだったよな?良かったら一緒に、、、」
「、、、つーん」
にこやかに上げた口角と右手が寂しい。
「荒北?」
「、、、つーん」
「ねぇ、ちょっと!」
「、、、」
荒北は全くこちらを見ようとせず、そのままスタスタと行ってしまった。
「ハァ!?何なんだよ!!コラ!無視すんなよ!」
怒鳴った声もただ寂しく響き渡る。
「あ!靖友ちゃん!オハヨー!久しぶりだねぇ」
「何で休みってこんなに早く終わっちゃうんだろ?ケド、また靖友ちゃんに会えるから私嬉しい〜!」
「朝からウッセ!っつか、下の名前で呼んでんじゃねェ。ウッゼんだよ」
「あは!怒られた!こわ〜い!」
「そうだぞ、荒北!ただでさえ怖い顔してんだから、ほら!朝くらいスマイルスマイル!」
「アァ!?俺の顔のどこが怖いんだっての!」
「あははは!そういうとこだよ〜!」
「何それ、もしかして靖友ちゃん、ボケてる〜?」
遠くで荒北が同じ学部の人達とはしゃぐ声が、やけに鮮明に耳に入ってくる。
その声が妙に勘に触るが、それよりも今はただ寂しくて仕方がない。
「、、、なんか既視感あるな、この感じ」
ツンと痛い何かが込み上げてきそうなのを、冷静を装った呟きで呑み込んで、私は1人肩を落とした。
荒北の背中はもう小さく遠い。
「何なんだよ、ほんと、、、」
そう、私達は今ものすごくギクシャクしている。