第11章 春は あけぼの
ドキドキしながら胸元を見下ろす。
ゆっくりと顔を上げる沙織と目が合った。
「荒北、、、」
ハの字に折れた眉。
潤んだ瞳に、赤い頬。
呼ばれた名前に反応して心臓に心地良い痛みが走る。
クシャクシャになった前髪を思わず撫でると、サラサラの髪からふんわりと甘い香りが漂った。
「沙織、、、」
好きだ。
自分がこんな気持ちになることなんて想像してなかった。
こんなことでこんなにも胸が苦しくなるなんて思わなかった。
面倒くせェ。
そう思っていたはずなのに。
どちらからともなく次第に引き合う距離。
ゆっくりと近付く薄紅色の唇。
気がつくと初めての感触に触れていた。
何だヨ、、、。
目を閉じて戸惑うように、その感触を確かめる。
冷たいようでいて温かい。
ゆっくりと息を吸うと沙織の匂いがする。
甘くて切なくて、胸が締め付けられるような匂いだ。
思わず荒北は沙織の身体をギュッと抱きしめた。
そしてそれに従うように沙織も荒北の背中に腕を回した。
荒北は薄く目を開いて様子を窺う。
涙で潤んだ沙織の目と目が合う。
瞬間、涙で潤んだ沙織の目が穏やかに細まった。
零れた涙が頬を伝って、荒北の頬も濡らした。
いいんだナ、、、?
もう、、、知らねェからな。
荒北は目を閉じてその柔らかな唇をゆっくりと啄んだ。
どうしようもなく甘いくせに、しょっぱい味がした。
マジで何なんだヨ、コレは、、、。
荒北がその唇を啄む度に沙織の腕に力が入って、荒北の後ろ髪をくしゃりと潰す。
ズルいだろ、こんなの。
そんな沙織が愛おしくて堪らない。
それから荒北は何度も沙織の唇を貪った。