第11章 春は あけぼの
新開とかオッサンと違って、コイツが何に悩んでるとか、傷付いてるとか、そんなモンにも全く興味なかった。
それなのに、ふいに頭ン中のどっかにコイツがしゃしゃり出てきて、俺は何でか放っておけなかった。
今だってそうだ。
何があったか知らねェが、 試験に落ちたのも全部コイツが悪ィ。
励ます?慰める?面倒くせェ。
それでも、、、。
荒北はスッと短く深呼吸をして、口を開いた。
「大丈夫だ、テメェなら」
月並みで。
無責任で。
フツーだったら絶対に口にしねェ。こんなこと。
ケド、何でだろーな。
コイツがこんな顔してたら落ち着かねェ。
悔しいんだろ?
それなのに怖くて止まっちまいそうなんだろ?
腹の中グシャグシャになるくらい情けねェのに、動けないんだろ?
もしもあの時こうしてたらって。
、、、知ってるヨ、昔の俺とおんなじだ。
だからこそ。
もう二度とテメェをそんなトコに置いていけねェんだ。
なぁ、早く上がって来い。
頑張ろうなって言ったのは誰だヨ。
「何がなんでも受かってこい」
なぁ、嬉しかったんだぜ?
テメェの鞄の中に、俺と同じ赤本が見えた時。
腹の底からテメェの名前を叫びたくなった。
人のことこんなにも喜ばせておいて、簡単に諦めんな。
「、、、そんで今度は真っ先に俺の所に来い。待ってるから」
待ってるんだ、俺はずっと。
何度、引き上げりや上がってくるんだ。
証明してみせろ。
「一緒に行こうぜ、沙織。洋南に」
ムカツク所ばっかのくせに、笑顔だけは可愛いんだ。
だからせめて俺の隣ではずっと、バカみたいに笑ってろ。
立ち止まりそうになりやがったら、俺が何度だって連れてってやる。
その為ならこんなバカげたことだって何度も言ってやる。
「そしたら一緒に飲もうぜ。ベプシ、、、奢ってやるから。パーティだ」
またあの屋上で2人で。
ケラケラ笑うテメェの隣で。
ハッ!ガラにもねェって?笑いたきゃ笑え。
荒北は沙織を抱きしめる腕に更に力を込めた。
滅多に言わない無責任な言葉にも、初めて呼んだその名前にもドキドキと鳴る心臓がただただ煩かった。