第11章 春は あけぼの
、、、、。
やっと、、、落ち着いてきたか。
どれだけこうしていたのか。
荒北は沙織の呼吸がゆっくりと深くなってきたことを確認して、ホッと息をついた。
「、、、」
正直、驚いた。
気がついたら誰かが泣いてる声がして、涙でグシャグシャな顔をしたコイツが目の前にいたから。
俺はたしかに甘えたヤツが嫌いだ。
自分は何もしねェクセに、安易に頑張れとか言うヤツも嫌いだし。
目の前の現実が変わんねェってウジウジ泣くような甘チャンなんか大嫌いだ。
人に優しく?ハ!笑わせんな。
そんなこと考えたこともねェ。
ケド、なんでだろーな。
テメェのそんな顔に俺は弱ェ。
荒北は沙織の泣き腫らした顔を思い浮かべて顔を歪めた。
沙織はしゃくり上げることはなくなったが、まだ荒北の胸に顔を埋めたままで黙っていた。
その頭をそっと撫でると、沙織の肩からゆっくりと力が抜けたのが分かる。
お前だったらイイんだ、、、。
出来るだけ優しく腕に力を込めて、静かに深く息を吸うと、沙織の香りで全身が包まれるようだ。
空は少し霞がかかって、まだ少し冷たい空気はどこかまろやかで、そんな冬と春の間のような匂いと相まって、とても心地良い。
サラサラと風になびく沙織の髪が荒北の鼻先をくすぐる。
なんつーか、、、イイ匂いだ。
そうだ。
俺はコイツに初めて会った時も、この匂いが嫌いじゃなかった。
あの日、鼻先をくすぐる春風にも、霞んだ空気に乱反射して目に痛い春の光にも、俺は胸クソ悪ィ気分になって席に着いた。
そんな俺の隣でコイツは気持ち良さそうに寝息を立てて。
変なヤツだと思った。
案の定コイツは、ウルさくて、負けず嫌いで、自分勝手で、
ひねくれモンで、乱暴で、そのクセ福チャンとおんなじ金髪で、、、ムカツクところなんて挙げだしたらキリがねェ。
そんなヤツ、まったく、全ッ然、好みじゃない。