第10章 冬はつとめて
「そーだぞ、福は新開に甘い。だがしかし確かに部への報告は早くした方が良い。後輩達が待っているからな、この俺の朗報を!」
「ケッ!なんだソレ!」
東堂の発言に荒北がツッコむ。
「はは、ケド確かに皆待ってる。泉田なんて毎日どうだったかってメールをしてきてたんだよ」
「ハッ!バァカだな、結果は今日になんねェと分かんねェだろうが」
「はは、そうだよな。でもそれくらい気にしてくれてたってことだろう」
「そうだ、とにかく報告はせねばならん。ほら、早く自転車を持て。このまま4人で行けば早いだろう」
東堂が荒北に手招きをし、3人は踵を返して部室へ向かおうとした。
しかし荒北は、
「、、、俺はパス」
そんな3人に背を向けて、校門を見つめた。
朝日が眩しく、目に痛い。
「は?どうした荒北。確かにお前には受験の結果を心配してくれるほど慕われている後輩なんかいないかもしれんが、、、」
「ッセ!ソコじゃねェっつーの!」
一応フォローを入れようとした東堂を遮って、毛を逆立てるように怒鳴る荒北。
「荒北、、、」
落ち着いてそれを見ていた福富にも、その背中はいつにも増して苛立っているように見えた。
タタッ。
ただ新開だけはそんな荒北にすぐに駆け寄った。
そして小声で声をかけた。
「靖友、もしかして沙織ちゃんか?」
「、、、」
一瞬、答えるのに戸惑った。
しかし新開になら言ってもいいと思った。
かっこ悪いとこなら何度も見られている。
「あぁ、、、まだ来てねェンだ」
荒北は新開を見ずに答えた。
その瞳の先の眩しい場所から、沙織が現れるのを待っている。
「、、、テメェこそ、部室行く前にチビ眼鏡のこと聞かなくていいのかヨ?」
「佳奈も受かったらしい。さっきメッセージが来てた。後で落ち合う予定なんだ」
「そっか。良かったナ」
言いつつ思わずスマホを手にする荒北。
画面には時間が表示されているだけだ。
まぁ、アイツからの連絡なんか暫く来てねェからな。
「オメデトサン!アイツにも後で言っとけ」
荒北はスマホを見ながらぶっきらぼうに、しかし声は一段と明るくして言った。
「あぁ、ありがとう」
そうやって素直に微笑む新開のことが少しだけ羨ましいと思いながら。