第10章 冬はつとめて
『がんばろうな』
目を閉じると掠れたような沙織の声が頭の中に響いた。
これまで幾度となく背中を押された言葉だ。
当たりめェだ、、、。
荒北は心の中であの日の沙織に返事をし、深く深く息を吸った。
新鮮な空気が身体中に染み渡る。
目を開けると、試験官らしきスーツ姿の大人が教室に入ってきたところだった。
大丈夫。
俺が向くべき方向は間違ってねェ。
「ッシ!」
荒北は短く気合を入れて、受験票を机の上に叩きつけるようにして置き、前を見据えた。
荒北の耳にはもう、教室の音はもう何一つ聞こえなかった。