第10章 冬はつとめて
翌朝。
パラパラと雪がチラつく中、荒北は試験会場である洋南大学の校門を見上げた。
「ったく、何でこんな日に限ってこんなに寒いんだヨ」
溜息混じりにボヤくと同時に、白い靄が宙に舞う。
アイツは、風邪なんかひいてねェだろうナ。
、、、ちゃんとあのマフラー巻いて来てっかナ。
自分の白い息が雪に混じって消えていくのを眺めていると自然と浮かぶ顔。
思い出すだけで、胸が締め付けられるようだ。
ふとキョロキョロと辺りを見回したが、その姿は見えなかった。
「ぶぇっくしょい!!アー、、、ったく」
荒北はブルっと一度身震いをさせると、吹きさらしの首を隠すように背中を屈めてから、洋南大学の門を通り抜けた。
不機嫌顔のまま、受験票に記された教室を探す。
(誰が不機嫌顔だァ?真剣なだけだ、バァーカ!)
寒さで猫背気味になっている肩には、受験票と筆記用具だけが入ったボディバッグ。
開始時間ギリギリまで勉強をする気なんてサラサラ無かった。
やることはやってきた。
受かるヤツは受かるし、落ちるヤツは落ちンだ。
もう賽は投げられてる。
俺がすべきなのはただ全力を出し切ることだ。
特にこの数日間は、部屋からもほとんど出なかった。
教室は解放されていたから、学校に行けば沙織に会えたかもしれない。
そんなことが頭をよぎらないわけではなかった。
しかし荒北はただ目の前の参考書に集中した。
とにかく今は自分の全開を出す。
それが今もっとも自分が希望する未来への近道だと。
沙織への気持ちの伝え方だと
身体が勝手に判断していた。
大丈夫。
頭は冴えて、鼻もきいてる。
全身の感覚がこっちで間違いないと言っている。
「ッシ!」
荒北は短く気合を入れて、教室へ入った。
受験番号から自分の席を探すと、一番後ろの窓際だった。