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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第10章 冬はつとめて


試験前日。




「う〜ん、、、だはぁ!」



一通り復習をし終えた沙織は、凝り固まった背中の筋肉を伸ばして、天を仰いだ。
ギィッと沙織の体重に押された椅子の背が鈍い音を立てる。



「ふぅ、、、っ」


沙織は白い天井を見つめながら、短く溜息を吐いた。






荒北と共に帰ってきたあの日から、荒北とは言葉を交わしていない。
というよりもここ最近は本番間近ということもあり、登校は生徒個人の自由だった。
沙織はたまに質問がある時に学校へ行って、教室を覗いたが、いつ見ても荒北の姿は無かった。



それでも何故か寂しさを感じることはなかった。
荒北もきっと部屋にこもって試験に向けて勉強をしているんだろう。



頑張ろう。
そう言った自分の言葉にただ短く、「、、、そうだナ」と答えた群青色の空に浮かび上がる荒北の背中。



それを思い出すだけで、少しがっかりした心は穏やかに晴れて、沙織の頬は綻んだ。
そして、その後で必ず沙織は「ッしゃ!」と静かに拳を握って気合を入れたのだ。





「いよいよ明日か、、、」





そう呟いてそんな毎日を思い出す。
自信を持つには短くて、堪えるには長かった。
そんな日々も明日で終わる。



沙織は静かに目を閉じて、深く深呼吸をした。



やることはやった。

賽は投げられたんだ。


後は今までしてきたことを出し切るだけ。





グッと力を込めて目を開け、机に置かれた筆記用具だけをカバンに入れる。
先に入れておいたクリアファイルに受験票が入っていることを確認して、カバンを閉じた。




そして沙織は最後に、クローゼットを開けて制服を取り出し、明日の朝すぐに着られるように壁にかけた。





「よし、、、。明日、頑張ろうな」





ハンガーの根元には、あれから毎日付けているワインレッド色。




そう誰かさんに言うように呟き微笑むと、沙織はゆっくりとベッドに入った。




冬の空気をまとった布団は冷んやりと沙織の体に触れたが、今の沙織にはそれが心地よく感じられ、ただ静かに目を閉じた。
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