第10章 冬はつとめて
それに、まだ自分が受かったってワケでもねェンだし、、、
今はそんなこと考えてる場合じゃねェ。
なぁ、これからも
たまにでいいから、、、
こんな風に一緒に帰らねェ?
なんつって。
そーゆーことは、、、受かってから言うモンだ。
バカなことを考えている自分を恥ずかしいと思うほど、荒北の足は自然と速度を上げた。
坂道を下る青い自転車も勝手に勢いづいて、知らず知らずのうちに沙織を置いてけぼりにしていたらしい。
チラリと沙織の様子を窺おうとその姿を追うと、自然と視線が後ろを向いた。
その時に一瞬見えた。
自分の肩に掛かる沙織の半分開いたカバンの口が。
そして、そこに入っていた赤い本の背に書いている見飽きた文字が。
洋、、、、南?
その文字を認識した途端、カーッと温度を上げた荒北の頭に、突然沙織が声をかけた。
「、、、なぁ、荒北」
話しかけられて、ハッと我に帰る。
何か見てはいけないものを見てしまった気がして、すぐに目を逸らした。
「ア?」
焦りを取り繕おうとしたら、思っていたよりも不機嫌な声が出て、自分でも驚く。
ドクン、ドクン、、、。
心臓の音が少しずつ少しずつ大きくなった。
ザッ、ザッ、、、。
誰もいない静かな坂道に2人の足音だけが響いていく。
ゴクリ、
できるだけ音を押さえながら、荒北は生唾を飲み込んだ。
沙織の口から次の言葉が出てくるのが、ひどく遅いように感じるのは気のせいだろうか?
ドキドキと鳴る胸と、今すぐ振り向いて問い質したい気持ちを抑えながら、荒北は必死で前を向いた。
「本番がんばろうな」
ただそれだけの言葉だった。
ありきたりで誰にだって言えそうなそんな沙織の言葉に、荒北は息をすることも忘れて目を見開いた。
そしてやっとのことで短く息を吸ってから
「、、、そうだナ」
荒北はできるだけ静かに、噛みしめるように、自身の決意を口にした。