第10章 冬はつとめて
目の前では、すっかり日が沈んだ下り坂に街灯がボンヤリと光っていた。
ここを下ると、すぐに寮が見えてくる。
荒北はふと大切なことを聞いていないことを思い出した。
そういえば、コイツってどこの大学受けンの?
ちょうどその時、タタタッと小走りをする音がすぐ後ろで止んだ。
沙織が追いついたようだった。
すぐ後ろに沙織の息遣いを感じて荒北は何だかむず痒いような心地がした。
荒北が大学のことを切り出そうかどうか迷っていると、
「ぷ、、、っ」
沙織が小さく吹き出した。
「ア?テメェ、まだ笑ってんのかヨ」
荒北は苦々しげに舌打ちをした。
クッソ、、、全然意識されてないじゃナァイ、俺、、、!
さすがにヘコむぜ、、、。
「笑ってないよ」
「バァーカ。嘘つけ、声が笑ってンだヨ」
落ち込み半分苛立ち半分でツッコミを入れると、
「あは、バレたか」
悪戯っぽく沙織が笑う。
「、、、ったく、マジで何なんだヨ」
その顔がまた可愛くて、更に落ち込んだ。
項垂れた頭を渋々起こして前を向くと、もう寮の屋根が見えてきていた。
何となく、期待してたンだ。
もしかすると同じ大学なんじゃナイ?って。
って、バカか、俺は。
コイツは自頭がイイ。
もっと偏差値の高い大学なんて腐るほどあるだろーが。
それに、コイツが近場に行くとも限らねェ。
都合良く考えていた自分に悲しくなった。
なぁ、オイ。
テメェ、一体、どこの大学に行くンだよ?
チラリと隣を見ると、沙織が楽しそうに前を向いて歩いていた。
ただそれだけのことが聞けなかった。
なぁ、俺はさ、
これからもこんな風にテメェの隣を歩きてェんだケド。
だからさ、同じ大学行かねェ?
散々バカだなんだと言ってきた、自分がそんなことを簡単に言える人間なら良かったのにと思いそうになって、フンと鼻から短く息を吐いた。