第10章 冬はつとめて
ハッ、、、久々にイイ顔して笑いやがって、、、。
楽しそうに笑う沙織の隣で荒北は思わず微笑んだ。
しかし沙織はそんなことには気づきもせず、相変わらず肩を震わせていて。
、、、っつかァ。
荒北は呆れたように溜息を吐いた。
「はァ、、、、ふざけてやがるぜ」
こンのヤロ、いつまでも人の頭で笑いやがって。
俺のコト、何だと思ってンの?
俺はこんなに、、、。
っつか、マフラーやったんだケド?
そんな俺をハゲとか言って笑うか、フツー?
もうちょっと、こう赤くなって礼を言うとか!
そーゆー可愛げを少しは見せてくれたってイイんじゃナァイ?
「ふふ、、、っ」
「、、、ったく、クッソが。」
もうちょっと意識しろっつーの!!
荒北はそんなことを心の中でボヤくと、チラリと沙織を見てから思い切ったように立ち上がり自転車に向き直った。
しゃがみ込んでチェーンを外しにかかる。
なかなか外れなかったチェーンを、今度はスッと外すことができた。
そしていつまでもうずくまっている沙織に近づいて言った
。
「ホラ、いつまでもニヤニヤしてねェでサッサと荷物貸せ」
「え、そんなのイイって」
ウッセー!ちょっとはカッコつけさせろってンだ!
驚いた顔をする沙織を一瞥して無視すると、荒北はサッとその手から荷物を奪った。
そして、その荷物を肩にかけて、反対側で自転車を押して歩き始めた。
沙織は意外にも何も言わなかった。
この俺が女の荷物持つなんてナ、、、。
驚いているのか?それとも怒っているのか?
、、、少しは自分のことを意識しただろうか?
荒北はフンと鼻を鳴らして歩き続けたが、内心ドキドキと心臓がうるさい。
ただ暫くすると、パタパタという足音が沙織が追いかけてきていることを知らせた。
荒北はホッと短く息を吐くと、スッと前を見据えた。
後ろを気にしていたことを沙織に悟られるわけにはいかなかった。
肩にかけた2人分の荷物は正直重くて、時折荒北の細い肩からずり落ちそうになって鬱陶しかったが、不思議と嫌だとは思わなかった。