第10章 冬はつとめて
茫然と沙織の顔を睨みつけることしかできない荒北の目の前で、沙織の肩がふるふると震え出した。
ア??
思わずクエスチョンマークが浮かぶ荒北の目の前で、沙織の無表情に近かった口元は少しずつ歪んだ。
そして、、、
突然沙織は大きく吹き出して荒北のすぐ隣でしゃがみ込んだ。
堰を切ったように腹を抱えて笑う沙織。
その様子はひどく苦しそうなのに、ひどく楽しそうで。
「あはは、アンタ驚きすぎっ」
「ア!?何笑ってンだ、テメェコラ!」
やっとのことで立ち上がって言い返す荒北。
「いや、だって、、、荒北、猫みたいっ、、、くく」
その言葉に沙織の笑いはさらに勢いを増したようで、息をするのも苦しそうだ。
クッソ、、、このヤロッ!
人の気も知らねェで、、、っ!!
ゼーゼーと肩で息をしながら見下ろすと、沙織はその艶々の髪を震わせたままだ。
「ハァ!?猫だァ??ふざけんなヨ!?ホンットに心臓止まるかと思って、俺は、、、っ!」
「あはは、だって髪跳ねてちょっとハゲてたし、、、っ」
ハ、、、ハゲだとォ!?
「コラァ!誰がハゲだァ!?」
「ぶふっ!あははは!!」
「テメェコラ!笑いごとじゃねェっつーの!!」
大声でツッコんでから、荒北は再びしゃがみ込んで、頭を抱えた。
何なんだヨ、もォ。
体調悪い時に風邪なんてひかせられっか、なんて
考えた俺はやっぱバカだったぜ。
呆れた目で隣をチラリと見ると、沙織はまだ可笑しそうにしていて、時折涙を拭う。
ったく、笑いすぎだろーが。
あー、、、もう、付き合ってらんねェ、、、。
ケド、、、。
自分のお気に入りのワインレッドのマフラーに包まれて、ニコニコと笑う沙織の隣で荒北は、
このまま時間が止まればいいのにとかいうバカげた気持ちってのは、こーゆーのを言うのかもナ、、、。
そんなことを思って目を細めた。
後頭部に残ったヒンヤリとした感触はまだ残ったままで、荒北の心臓は静かに高鳴っていた。