第10章 冬はつとめて
自転車置場に着くとすぐに、荒北はしゃがみ込んでチェーンを外しにかかった。
「、、、もうすぐ本番だろーが。少しは大事にしろってンだ、、、ったくテメェはいっつもそうやってなァ、、」
気を紛らわせようと、背を向けたまま不満を口にする。
できるだけ早くチェーンを外して、この気恥ずかしさから解放されたかった。
しかしこんな時に限って絡まったチェーンはなかなか外れない。
いつもよりも力が入る手元はガチャガチャと煩い音を立てて、さらに荒北の神経を逆撫でた。
クッソ!何で外れねェンだヨ!!
荒北が苛立ち、チェーンを引きちぎってしまいたくなった時、
ふわっ、、、
うなじ近くの後頭部にヒンヤリと冷たくて、何か柔らかいものが触れた。
「ハッ!!?」
瞬間、驚いて飛び跳ねる荒北。
一瞬腰が抜けて冷たいアスファルトの上に手を付いた時、目の前で驚いた顔をした沙織と目が合って、思った。
さッ、触られたッ!!?
そして自分が何をされたかがすぐに分かった。
「な、ななな何すンだヨッッ!!」
自分でもビックリするくらい声が裏返った。
思わず抑えたうなじと、へたり込んだこの格好は、いつか何かで見た「親父にもぶたれたことないのに!!」と言い放った主人公のようだ。
又は、「もうお嫁に行けない!」的な、、、?
どっちにしろ、カッコ悪い、、、。
しかしそんなことを取り繕う余裕もなかった。
「髪、跳ねてた」
ハァ?!だからって触るか、フツウ!
自分の頭を指差して飄々と答えた沙織に思わずツッコんだ心の中の言葉を口にすることもかなわないくらいに。
荒北の口はただアワアワと震えるだけだった。